雨天時の走行において、路面の変化は我々ライダーに対して容赦のない牙を剥く。
特に交差点やカーブに潜む白線とマンホールは、ただでさえ制動力に不安を残す旧車にとって致命的なトラップとなり得る。
今回は、感覚や度胸といった精神論ではなく、物理法則の観点から路面との摩擦係数低下という現実に直面し、いかにしてスリップダウンを防ぐかという思考法と操作について検証していく。
路面に潜む危険性を数字で把握する
雨の日に白線やマンホールの上でタイヤが滑るという現象は、誰もが経験的に知っている事実だ。
しかし、それを滑りやすいという曖昧な感覚で処理しているうちは、転倒のリスクから逃れられない。
これを物理的な「摩擦係数(ミュー)」という数字で捉え直す必要がある。
一般的なアスファルトの摩擦係数は、乾燥時でおよそ0.8程度だが、雨で濡れると0.6前後にまで低下する。
問題は、路面に引かれた塗料や金属製のマンホールだ。
濡れた白線の摩擦係数は0.4を割り込み、濡れた鉄に至っては氷の上に近い数値まで急落する。
アスファルトと白線等の摩擦係数の違いを数字で示せば、路面状況がいかに激変しているかは一目瞭然である。
写真に写る、後部へ山積みの荷物を括り付けて走るバイクの姿を見てほしい。
日本ではあまり見られない光景ではあるかもしれないが、このように過積載で重心が高く荷重バランスが狂った状態のまま、雨で摩擦係数が底をついた白線に乗り上げれば、一瞬にして足元をすくわれることは想像に難くないだろう。
この圧倒的なグリップ力の低下を前にして、普段通りのバンク角やブレーキ操作を求めるのは、物理法則を無視した無謀な行為であると考えるのが妥当だ。
交差点における右直事故リスクの増加とライン取りの変更
摩擦係数の低下が最も恐ろしい形で現れるのが、交差点への進入と通過のプロセスだ。
交差点内には横断歩道のゼブラゾーンや停止線など、巨大な白線が複雑に配置されている。
雨天時にこれらの上で車体を深くバンクさせることは、自らスリップダウンを引き起こすようなものだ。
交差点での右直事故リスクやライン取りの変更を促す最大の理由は、対向車への対応が遅れることに加え、急制動などの回避行動が完全に阻害される点にある。
したがって、晴天時のようなレコードラインをなぞる走り方は完全に捨て去らなければならない。
数メートル先を見据え、横断歩道の塗料が途切れる隙間を縫うようにライン取りを変更し、危険地帯では車体を極力直立させておく必要がある。
車体直立と無操作というセオリー
どれほど慎重にライン取りを組み立てても、車線変更のタイミングなどでどうしても白線やマンホールを踏まざるを得ない局面は必ず訪れる。
そのような回避不可能な状況下で取るべき最適なアクションは、「何もしない」という操作である。
低ミュー路面に差し掛かる手前で車体を完全に直立させ、スロットルは一定を保ち、ブレーキレバーからは指を離す。
タイヤへの前後左右の荷重移動を一切排除し、慣性の法則に従って車体を滑空させるように通過させるのだ。
路面の状態を予測し、危険な要素を徹底的に排除するライン取りの変更こそが、旧車を無事にガレージへ帰すための唯一の道である。
