雨の夜道、突然ヘッドライトが消え、タコメーターの針がゼロに落ち込む。
エンジンは力なく沈黙し、後には雨音だけが残る。
旧車を通勤で走らせる者にとって、これほど背筋が凍る瞬間はないだろう。
水と電気の相性が最悪であることは言うまでもないが、数十年の時を経た旧車の電装系は、我々が想像する以上に雨に対する耐性を失っている。
今回は、劣化したハーネスに雨や塩害が引き起こす漏電リスクのメカニズムを紐解き、最低限の防護策を提示したい。
経年劣化による被膜の硬化と毛細管現象が招く浸水リスク
バイクの血管とも言えるメインハーネス。
製造から数十年が経過した旧車の配線は、例外なく被膜が硬化し、柔軟性を失っている。
エンジンから発せられる熱と冷却の過酷なサイクル、そして紫外線を浴び続けたゴムやビニールは、目に見えない無数のひび割れを抱えているのだ。
恐ろしいのは、雨天走行時にこのひび割れから水分が浸入するメカニズムである。
走行風に押し込まれた雨水は、毛細管現象によって配線の内部へとじわじわと吸い上げられていく。
特に海沿いの地域で運用している場合、この雨水には塩分が含まれているため、塩害が引き起こす漏電リスクはさらに跳ね上がる。
一見すると配線の外側は濡れていないように見えても、被膜の内部は塩水で満たされた導火線と化しているのだ。
カプラーとギボシ端子を蝕む緑青と漏電を引き起こすメカニズム
被膜の内部を伝った水分が最終的に行き着くのは、カプラーやギボシといった金属同士の接点である。
ここに塩分を含んだ水分が到達すると、電気分解と酸化が急激に進み、「緑青(ろくしょう)」と呼ばれる厄介な錆が発生する。
電気の抵抗となるだけでなく、周囲の水分を保持しやすいため、常に端子を濡れた状態にしてしまうのだ。
結果として、本来流れるべき回路とは別の場所へ電気が逃げてしまう漏電(リーク)を引き起こす。
雨の日に限ってウインカーの点滅が早くなったり、ホーンの音が弱々しくなったりするのは、まさにこの漏電の初期症状である。
これを単なる旧車の「ご愛嬌」として放置すれば、メインヒューズが飛ぶか、最悪の場合は配線がショートして車両火災に繋がりかねない。
接点復活剤とシリコングリスを用いた防護策
劣化したメインハーネスを新品に引き直すのが最善の解決策であることは言うまでもない。
しかし、純正部品が枯渇している旧車において、それは容易な決断ではないだろう。
そこで現実的な予防策として提案したいのが、接点復活剤を用いた最低限の防護策だ。
雨天走行の前後や洗車後、バッテリーのマイナス端子を外したうえで、アクセス可能なすべてのカプラーを抜き、接点復活剤を吹き付けよう。
端子表面の汚れや初期の酸化膜を除去すると同時に、微細な防錆被膜を形成して水分の直接的な付着を防げる。
さらに、カプラーの裏側やゴムブーツの隙間など、水が滞留しやすい箇所には、非導電性で耐水性に優れたシリコングリスを薄く塗布。
水の浸入経路を塞ぐアプローチも有効な防護策となる。
電装系のトラブルは目に見えない場所で静かに進行し、ある日突然致命的な牙を剥く。
電気の流れを守るための地道な予防保守は、ライダーに課せられた最低限の義務であることを忘れないでほしい。

